適当に妄想

 「好きな作家はいますか?」 彼は尋ねた。
 「はい、太宰治と滝…なんでしたっけ? あの、ひきこもり小説書いている人です」
 苦笑しながら「では、好きな歌手は?」と問うてきた。僕は「セックス・ピストルズです。やっぱ名前が一番大切かなあって思うんですよ。セックスですよ、セックス。僕はまだしたことありませんけど」と笑いながら返した。
 「はあ」 目を手元の書類に向けながら気まずそうに返事をした。
 「ああ、あと筋肉少女帯ですね。やっぱりこれも名前です」
 「分かりました。結果は後日、そちらに届きますので。今日はこれで結構ですよ」

 それから三週間、電話も葉書も音沙汰無しだった。
 最初から受かろうなんて思っていなかったんだ。あんなところ、誰が行きたいと思うか? 行きたいなら、作家は中島敦、歌手はローリング・ストーンズとでも答えるさ。
 やっかいごとが終わって、気分も晴れた。エロゲーショップで君望でも買ってこよう。
 庭先のバイクにキーを差し込み、僕は駅へ駆けていった。