MY FOOT

MY FOOT

 今年最初の名盤。とりあえず各曲の感想を書いてみる。


1.MY FOOT
 最初に聴いた時は、これは駄目だと思った。理由は(多分)シンバルのリズムを裏拍で取っていて、なおかつそれが強調されていて、リズム感のない僕には馴染めなかった。このときの僕は『MY FOOT』を駄盤認定していた。しかし何度も聴く内に苦にならなくなり、これいいじゃんと思えるようになると、詞の世界が一気に脳内に広がってきて直ぐさま改心。
 この曲の詞で一番気に入っている表現は「道なき道を 踵を鳴らして行こう」というもの。踵を鳴らして、と言う表現は上昇志向で快活だと思う。今のthe pillowsを体現する表現だ。


2.ROCK'N'ROLL SINNERS
 僕は日本人が英語の歌を歌うのが大嫌いだ。実はthe pillowsにおいてもあまり快く思っていない。だけどこの曲の「All the people of the earth want to rock and roll. I quit forget,yes. I'll try to do better in future.」という詞を聴いたとき、素直に格好良いと思った。意味よりも音韻が格好良く、この曲は英語で歌うべきだと思った。自分の主義主張が揺らいでいく…。


3.空中レジスタ
 SEX PISTOLSを思わせるリズム・ギターでやられた(多分歪みが似ている)。ギター・ソロはそういう歪みではなくファズの様な乾いて荒々しい歪みで、今作でも指折りの出来。
 詞は山中さわお氏、ひいてはthe pillowsの有り様を表現している。「くたばれ人間ども!」と言っていた頃よりは世界を好意的に受け止めている。それでも「神様が逃げた 不完全な地球上で」という言葉があって、やはり面白い。


4.サード アイ
 シングルA面曲。曲調は明るく激しくポップな装いだけど、詞の世界はそう簡単に消費できない。
「モンスター」は夢や欲望、「三番目の目」は欲する心。「空席はいつだって僕らを待ってる」というのは世界は最初から僕たちを見放している訳じゃないのだから、頑張ってみろよと暗に言っているのだろうか。希望、欲望が快活な曲に合わせて鮮やかに発光している歌。


5.Mighty lovers
 僕はキモメンで恋愛適性もゼロなのでこういう生々しい女性像には怒りを覚える! うぜーうぜーうぜー! 女なんて大嫌いだ、もう僕にはエロゲー以外に逃げ道はないんだ、ウリイイイイイ!
 暴走してしまったけど、正直表現は面白いと思う。「下着のままでリンゴの皮を剥き 雑誌の表紙のように 彼女は上手に笑っている 勿体ぶった足取りで近付いて 甘そうなそいつをくれ」って、甘そうなのはリンゴなのか下着姿の彼女なのか、どっちなんだ。悶々としてしまう。あと、「ネクタイしたまま眠る僕を見て 1万フィート上空 彼女はゲラゲラ笑ってる」というのも良い。寝ぼけ眼から見える幻想的な彼女の有り様が伝わってくる。「1万フィート上空」が音韻も良く誇大な意味合いで、この詞のキモ。


6.ノンフィクション
 シングルA面曲。the pillowsはリズム感もいいなあと思わせる一曲。ドラムの鳴らない空白の間で、ゆらゆら帝国の「ラメのパンタロン」を思い出す。無音空間は音のスパイスになりうる。
 ギターも良い出来。イントロとリフは本当に斬新。かといってギターの独壇場ではなく、ドラムと上手く調和している。この点がthe pillowsの素晴らしいところだ。ギター・ソロは、最後がTHE ALFEE高見沢俊彦の様で思わずにやりとしてしまった。インタビューによると、最近は山中さわお氏、真鍋吉明氏共にリズム・ギターをやったりリード・ギターをやったりしている様なので断言は出来ないけど、この巧さは真鍋氏かと思われる。
 「真夜中のラジオに 誘われた世界は 僕をたくましく育てた 何にも怖くないぜ」 このラジオ、僕にとってはCD。コンポから垂れ流すことによって「夜はいつだって残酷なフレンド 忍びよって目隠しして 誰にも言えないような 夢を見せるんだ」の様な状態を回避していたり。人間らしさが伴わない夜は発狂しそうになる。自分の矮小な存在について、将来についての問題で押しつぶされてしまう。要するに現実逃避して直面せざるを得ない問題を忘れることでしか、僕は生きていくことしかできないわけで。本当に駄目人間で泣けてくる。


7.Degeneration
 6.ノンフィクションの昂揚感を上手く抑えたなと。詞についてはこれまたよく分からないけど、何もかも脱ぎ去ってぶち壊して気持ちよくなろうぜという、良い意味で原始的なロックンロールなのかなと思った。サビの格好良さに乾杯。


8.MARCH OF THE GOD
 インスト・ナンバー。最初のリズム・ギターが面白い。これで7.Degenerationからの流れを一変させて、聴衆の注意を喚起させる。
 主な聴き所はリズムの素晴らしさ。ドラムの佐藤シンイチロウ氏の凄さが伝わってくる。音響的にも面白い所があって、実験的な曲だと思う。


9.My girl(Document Version)
 今作の代表曲。シングル『ノンフィクション』に収録されていたFiction Versionとは曲調を一変させて、比較的軽快なロックになっている。軽快さの中に寂しさが見え隠れしている。Fiction Versionは波に揺られている曲調で、寂しさも虚ろだった。僕は今作に収録されているDocument Versionの方が好き。
 詞は女性についてのものだが、5.Mighty loversとは違って好意的に受け取れる。何故だろうと考えてみると、この歌は基本的に頭の中で繰り広げられているものだからだと思う。思い出とか意志とか、外とのつながりがあまり無いから好きなんだろう。あと、今では手中にないものを求める気持ち、その後に来る諦める気持ち、そういうものは僕も共有している。だから今作のどの曲よりも心に伝わるものがある。下着姿の彼女とかは見たこともないので、この点では比べものにならない。


10.さよならユニバース
 イントロはこの曲の核である「宇宙」を漂うが如く気分を演出している。全体孤独で貫かれている。the pillowsは孤独な歌と「君」に語りかける歌があるけど、お互いに引き立て合っていてthe pillowsの素晴らしさも引き立つ。
 ただ、前作『GOOD DREAMS』の表題曲が今作でいうこの位置にあって、その曲があまりに素晴らしいものだから比較せざるを得ない。今作の方がその点ではやや劣勢。まあ、9.My girl(Document Version)があるのでいかんともしがたいけど。


11.Gazelle city
 the pillowsの作品は最後に感情の高ぶりを抑えるような曲を持ってくる。今回もそれ。盛り上げるだけ盛り上げて、はいさよならということはしない。冷や水をかけるような曲ではなく、質の高いものを持ってくるのも素晴らしい。こういう終わり方をするから、何度も何度も聴きたくなるのだと思う。


後記
 「語りえぬことについては沈黙せねばならない」という偉大な教えをとことん踏みにじって、しったかぶって書いた感想群。中身はないけど文章量はそこそこで、それなりに力を入れたわけで、事実上終わった学校のおかげで出来た暇を有意義に活用できたと思う。もうちょっとまともなことを書けるようになりたいので、これからはより生活を充実させて、人間として成長したいものだ。
 最後に。the pillowsは偉大だ!